自転車は暗黙知で動く

皆さんは、自転車の乗り方をどのように教わったでしょう。まさか、自転車の乗り方理論をテキストや黒板に書いてもらい教わった人は居ないと思います。
ほとんどの人が実践的な練習で、最初は父親に自転車を抑えてもらいながら、徐々に平衡感覚を掴んで行き、最後にはひとりでバランスを取れるようになったのでは無いでしょうか。
そして人は、一度乗り方を覚えてしまうと、時が経っても乗り方を決して忘れる事がありません。
また、その時の経験を基にして、次の新しい何かにもチャレンジする力にすらなるのです。
自転車を乗りこなすには、複雑多岐の難しい技術があるのにもかかわらず、決して忘れり事が無いのです。
つまり人の身体には、表面化されないものの、暗黙のうちに複雑な制御を実行する過程が無意識に作動しており、自転車の制御を可能にしているのです。
これこそが暗黙知tacit knowledgeなのです。
教育界では「非認知能力」という言葉も使われているのですが、日本企業の強みの一つには、この「暗黙知」が有るのです。
暗黙知とは「知識というものがあるとすると、その背後には必ず暗黙の次元の「知る」という動作がある」ということを示した概念なのです。
この意味からすると「暗黙に知ること」と訳したほうがよいのかも知れません。
ハンガリー出身の学者マイケル・ポランニー氏が著作「暗黙知の次元」において、タシット・ノウイング(英: tacit knowing)という科学上の発見(創発)に関わる知という概念を提示しました。
ポランニー氏の用語を利用した理論に、ナレッジマネジメントの分野で使用される、一橋大学名誉教授、野中郁次郎氏の「暗黙知」があります。
野中氏は、「暗黙知」という言葉の意味を「暗黙の知識」と読みかえた上で「経験や勘に基づく知識のことで、言葉などで表現が難しいもの」と定義し、それを「形式知」と対立させて知識経営論を構築しました。
野中氏が定義したSECIモデルとは、個人が持つ暗黙的な知識は、「共同化」(Socialization)、「表出化」(Externalization)、「連結化」(Combination)、「内面化」(Internalization)という4つの変換プロセスを経ることで、集団や組織の共有の知識となることなのです。
「共同化」とは、経験の共有によって、人から人へと暗黙知を移転することなのです。
「表出化」は、暗黙知を言葉に表現して参加メンバーで共有化することです。
「連結化」は、言葉に置き換えられた知を組み合わせたり再配置したりして、新しい知を創造することです。
そして「内面化」は、表出化された知や連結化した知を、自らのノウハウあるいはスキルとして体得することです。
ナレッジ・マネジメントとは、SECIのプロセスを管理すると同時に、このプロセスを管理すると同時に、このプロセスが行われる「場」を創造することなのです。
日本人は、この集団や組織の共有の知識を組織や製品化において活用するのがとても上手な民族であり、それが日本人のとてつもないアドバンテージとなっているのです。
これらのプロセスを「心眼」と重ね合わせると、より一層「心眼」の重要性が分かる筈なのです。
現在の教育界で指摘されているのは、まさにこの分野なのです。
日本の教育現場では特に、認知能力だけに偏重された教育が行われており、暗黙知や非認知能力の教育が忘れられてしまっている事に大きな問題があるのです。
私立の小中学校でブームとなりつつある、アクティブラーニングを主流に取り込む「21世紀型の教育」とは、まさに暗黙知や非認知能力の見直しを促進する為のカリキュラムだと言っても良いのです。
非認知能力とは、米国のジェームス・ヘックマン教授が発表した概念です。
IQでは測れない意欲、忍耐強さ、自己抑制能力、社会的適応性を示す能力であり、その潜在能力は、「(経済力など)資源の制約、情報量と社会的な期待、両親の情報と期待、そして本人の選好、という4つの要因から影響を受ける」とされているのです。

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